事件

諸般の事情や生来の怠惰癖が出て、更新が随分と滞ってしまっていた。この間、少し疲れていた心を癒そうと、かなりの映画を観た(もちろんDVDで)。そんな話から徐々にペースを取り戻していこうと思う。
まず『アクロス・ザ・ユニヴァース』。
映画音楽には大いに興味はあるけれど、音楽映画にはあまり興味はなかったのだが、nagonaguさんがとても褒めておられたし、なにより私はビートルズの波をもろにかぶった世代である。
まず思ったのは、私にとっては映画館では絶対に観てはならないとても危険な映画だろうということだった。いまだに私はビートルズのほとんどの曲を一緒に歌うことができるし、たまに耳にするとつい知らずのうちに口ずさんだりしている。案の定、『It won't be long』といったもう30年以上も聴く機会のなかった曲など、やはり一緒に歌ってしまっていた。
ストーリーらしきものはあるものの、ビートルズとその周辺的事象だけを素材として、それらの意味やイメージの上を次から次へと横すべりしていくもう一つの『アンダルシアの犬』というような印象を受けた。実際、ジョン・レノンの書く詩や、たとえば『If I fell』という曲のへんてこなメロディ展開などにもそういう傾向は大いにあったと私は思う。
主人公のジュードと友人のマックス(ウェル)、そしてマックスの恋人ルーシーの関係は、明らかにジョージ・ハリソンエリック・クラプトン、パティ・ボイドの関係を思い出させるし、何とジャニス・ジョプリンをモデルにしたと思しき女性歌手のバックで、ジミ・ヘンドリクスをモデルにしたと思しき黒人がリード・ギターを弾いていたりする。当時の事情に詳しい人はもっといろんなことに気付いていることだろう。私の自慢は、ジュードが母親から愚痴をこぼされるところで思わずにやりとしてしまったこと。
「お前が造船工を続けていたら、マージー川のフェリーボートで通えるので毎日一緒に暮らせるのに。」
ビートルズの後を追うようにリヴァプールから多くのバンドが輩出したが、その中の一つ、ゲリーとペースメーカーズのそのものずばりのヒット曲、『マージー川のフェリーボート』。
この映画でただひとつとても残念だったのは、ヴェトナム反戦運動など当時の世相を丹念に描こうとしていたのに、もう一つの世界的大事件、ビートルズの登場ということについて、一切触れられていなかったということだ。





なんばパークス
9月1日のエントリーで、大浪通り以南をディープ・サウスとするという自説を述べたが、このなんばパークスは、その大浪通りに南接し、今やディープ・サウスの玄関に相当するような施設となっている。元々、南海ホークスの本拠地、大阪球場が建っていた。当時の都市的文脈の中でひときわ巨怪な異物性を放っていた。特にナイターのない夜間など、黒々とした量塊が立ちはだかり、その向こうにはスラム街が広がっていた。あたかも伏魔殿の入り口のようであった。


私の記憶違いでなければ、確か六本木ヒルズと同じアメリカのランドスケープ・アーキテクトが手がけたはずだ。面倒なので調べる気がしない。手前から斜面状に高くなっていて、最高部で9階の建物。外部からも上がれるようになっている。さすがに屋上庭園の緑は随分と濃く深くなった。9階には、ごく小さなものだが、南海ホークスのメモリアルギャラリーが設けられている。




できてから何年にもなるのに、しかも徒歩5分圏なのに、3階以上に上がるのはこれで2度目。





アリゾナあたりの峡谷をイメージさせようとしたのだろう。その意図はそれなりに成功していると思う。というより相当に成功している。





この写真を撮ったのは金曜日の午後だったからか、予想していたよりは賑わっていた。これは2階部分。





全体を丘状にしたということのツケが内部にもろにまわされている。エスカレーターは必ずこのようなずれた位置に設けられている。最初にここに来たとき、6階の飲食街で食事をしようと思ったのだが、この動線のあまりの能率の悪さにうんざりし、二度と来るものかと思ったのだった。





とはいえこのように上から下まで同じ位置に設けられたエスカレーターもある。とはいえ、それに乗るためには、まず最初に相当奥の方にまで歩いて行かなければならない。





そこここにベンチなどが設けられていて、せせらぎのようなものもある。動線は相当に長いので、早朝の散歩などにはいいかもしれない。





今朝、大事件があった現場。なんばパークスの裾野といってもいいような直近の場所。





たとえば住宅地で殺人事件などがあったりすると、そのあたりの空間は当面は凍り付いたような気配を帯びるものだ(と、思う)。普段とは異なったぎこちない気配は確かに漂ってはいるものの、15人もの人間が死亡したというとんでもない事柄さえも、この圧倒的な雑踏の中にたちまち溶け込んでいくように感じてしまう。





高架を挟んで手前の高層ビルと反対側の場所で事件は起きた。





今日のYoutube
Gerry and The Pacemakers 「Ferry Cross The Mersey」