逃避と弁明

今日は朝から用事があった。昼過ぎにも来客があり、その人物が帰った後、さてどこかに出かけて写真を撮ろうと思ったが、窓の外がいつになく暗く、やがて、ニュースでも伝えられたように大阪でも凄い雷雨が始まった。夕方からまた出かける必要があり、だから今日は写真が撮れなかった。(神戸で亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。)
本当は明日から一週間、このブログの更新を停止する予定だった。それが一日早まってしまった。8月5日に、ある試験を受けることになっていて、その勉強をしなければならなかった。実際は一週間どころではとても間に合わない試験なのだが、そして自分でその試験を受けることを思い立ちはしたものの、受かる確率はおそらく0.1パーセントもないだろうとこれまた自分で判断し、だから勉強をするのが億劫で、こんなブログ書きに逃避するという、なんとも矛盾に満ちて滑稽な日々の過ごし方だった。
ところが、昨年、3ヶ月かけてフランスとスペインを旅してきた時の写真のストックが山のように残っている。いまどき3ヶ月もヨーロッパを旅行するとは何と贅沢な、ワーキング・プアという人たちの存在が問題になっている現代の日本の社会で、お前は庶民の敵だといわれそうだが、そして自分でも恐ろしく贅沢なことをしたとは思っている。だが、我々のような職業の者にとって、長期間外国を旅行するということはそれほど珍しいことではない。建築家にとって外国(だけでなくもちろん国内も)を旅行するということは、たとえば画家がルーブル美術館に見学に行く、音楽家ウィーン・フィルを聴くためにオーストリアに行く、というようなことよりも、おそらく遙かに濃密な意味を持つ。
それにしても建築家というのはそんなに儲かる職業なのかと思われそうだが、ごく一部の例外を除いて、それはむしろ逆だろう。一般の人たちが普段する遊びも贅沢もほとんどせず、爪に火を点すような生活をして一心にお金を貯める。そして思いっきり旅をする。小説やTVドラマなどで描かれる職業像と、その現実の姿がこれほどかけ離れた職業というのもそうはないだろう。少なくとも私の交際範囲にある建築家で、ゴルフをする建築家も、カラオケが好きな建築家も一人もいない。車の免許さえ持たない者も(残念ながら私は持っているが)少なくない。
と、少々弁解がましい前振りはこの辺にして、昨年の旅行日記には載せられなかった写真で、しばらくはお茶を濁します。今日は二日間滞在したパリの拾遺写真集。






ラ・ヴィレット公園のシテ科学産業博物館という施設にある映画館。この建物を見て、あることに思い至った。20世紀の映画史で、どんなに偉大な監督も、みんなおそらく一度はやってみたかったけれど、ついに誰もなし得なかった映像というものがひとつだけある。鏡を真正面から撮影した映像。『鏡の中にあるごとく』のイングマル・ベルイマン、『鏡』のアンドレイ・タルコフスキー、『アイズ ワイド シャット』であれほど執拗に鏡の映像に拘ったスタンリー・キューブリック。どれほど彼らは夢見たことだろう。だが、コンピュータ・グラフィックスという新技術の出現によって、場合によってはその辺にいる中学生でもそれは可能になった。なってしまった、というべきか。



パリ郊外にあるフランス国立図書館。ドミニク・ペローという建築家がコンペで獲った。直角に開かれた4冊の本というモチーフの、駄洒落によるお洒落な建築。私にとってはどちらかというとオサレな建築。



昨年の日記でも本当は書きたかったのだが、その機会が見つからず、書けなかったことを書く。フランスの建築家は概して曲線(曲面)の使い方がへたくそで(これは昨年も書いた)、その代表例と私が思っているのがこの建物を設計したクリスチャン・ド・ポルザンパルクだ。ある時期、この建築家は大層人気があり、どうしてこんなにだらしのないデザインしかできない建築家がと、私には不思議でならなかった。と思っていたら、やはりいつの間にかどこかに消えてしまった(と思う)。この建築がかっこよく見えたとしたら、それはひとえに私の写真の腕による。身についた職業的習性で、どんなにひどい建築も、ついベストのアングルを探してシャッターを押してしまう。



なんとパリにはエッフェル塔と同じ高さの塔がもう一本あった。誰も知らなかった世紀の大発見。



看板のような建築。



看板としての建築。



看板の中の建築。



鄭明勳指揮によるパリ放送交響楽団演奏のドヴォルザーク、という看板。



パリ名物(ニューヨークでもそれは名物であるが)の地下鉄音楽。パリの地下鉄の乗り換えは、どこも、大阪でいえば本町のようにやたらと長いトンネルや階段を歩かされ、角を曲がるといきなり音楽が聞こえてきてよく驚かされる。そして演奏のレベルの高さに必ずもう一度驚かされる。



パリ郊外の名もない街の並木道。


今日のYouTube
Kinks 「Sunny Afternoon」
本文とは関係ありません。